真っ赤な苺って愛らしくてきれいですね。今の時期出回っているのはもちろんハウス栽培の苺です。路地苺は春にならないと収穫できませんから。ハウス栽培のお陰で一年中苺を手に入れることができるわけですが、その裏には作り手の様々な努力があります。
NHKワールドでニュースを拾っていたら、ハイテク温室で苺栽培を成功した人の紹介記事がありました。農業といえば土と水が基本ですが、それにITが加わることで新たな道を開拓している人たちがいるのです。
農業は本当に辛いのか?
農業の衰退が著しい日本の現状。肉体労働がきつい、天候に左右されるので収入が不安定、その結果として後継者の不足、とマイナスの側面ばかりが浮き彫りにされがちです。
私が住む地域(上越地方)も、かつては水田が広がる農業地帯でした。しかし今ではわが家の周りは住宅地に様変わり。日本の食料自給率が乏しいのもわかる気がします。
わが家は兼業農家でしたから、主な収入はサラリーマンの父の稼ぎに頼っていました。少ない田畑は母が担当。いわゆる「母ちゃん農業」でした。近所の家もほとんど同じ。田畑だけではとても暮らしていけなかったからです。
テレビなどでは棚田を守れ、などというのをよく聞きます。棚田を守ることそのものは良いことではあっても、棚田だけでは暮らしていけないのです。
都会発信のメディアは、いつも観光的な視点で棚田を見ているのではないでしょうか。高齢化した農家の人たちにとって、機械が使いにくい山間の棚田では、田植えも稲刈りも足腰が痛くなるばかりで苦しい作業でしかありません。
一般的には農業は大変だというイメージが定着していると思います。しかし世の中いろいろな視点を持つ頼もしい人がいるものです。従来の農業をハイテク化することで、辛いだけの農業から脱皮して成功に導いた人がいるのです。もちろん収入の安定も確保。
ハイテク温室で苺栽培
宮城県亘理郡山本町は苺栽培で知られた町です。そこでITを用いた温室栽培で苺を生産することに成功したのが岩佐大輝さん。
東京でITエンジニアとして働いていた岩佐さん。2011年の大震災で地震と津波に襲われた故郷に元気になってもらいたいと考え、自分でもイチゴ栽培を試みることに。しかし従来の方法でイチゴ栽培技術を身につけるには10年はかかると知りました。収入も不安定ですし、ハウスの中で働きたいという人はなかなかいませんでした。
そこで仕事の経験を生かして岩佐さんが考えたのがハイテク温室。栽培のほとんどの行程をオートメーション化するのです。コンピューターによって、最適な温度・湿度・二酸化炭素レベル、そして日光さえも調整するのです。
技術を伝える
岩佐さんは自分が開発したハイテク温室の技術を、農業を目指す人たちに教えることも始めました。今では彼の生徒さんたちも少しづつ自分の夢を実現しつつあります。
岩佐さんのハイテク温室で育った苺は大手デパートでも販売されています。またシンガポールや香港などへも出荷されているそうですから大した躍進です。そのうえ彼は東京で苺専門カフェまでオープン。苺のスイーツで若い女性たちを幸せにしているようです。苺の赤って元気カラーですからね
一般常識を裏切る苺
なんやかんやいってもやはり露地栽培の苺の方が美味しいに決まっているさ、なんていわれるかも知れません。でも実際にはこのハイテク温室育ちの苺は、決して露地栽培苺に劣っているわけではないのです。というのもハイテク温室から出ていく苺は熟しているものだから。
普通は熟す前に収穫したものを出荷し、数日後に店頭に出ます。苺は傷みやすいですからね。しかしハイテク温室苺は中間業者を介せず、収穫の翌日には店頭に並ふのです。そのため熟したものを出荷できるというわけです。販売ルートの開発にも努めた結果だといえます。
夢が広がるハイテク農業
ハイテク温室を開発した岩佐さんは、「農業生産法人 株式会社GRA」を設立。東北地方を世界的な先端園芸の集積地に育てることを夢見ているのだとか。何と頼もしい!
私自身は農業従事者ではありません。しかし育った環境が農業地帯でしたので、農業が衰退している状況が気がかりでなりません。
家庭菜園と食べていくための農業とは別です!
安定した収入という面でも、こうしたハイテク技術の助けを借りてしっかりした経営ができる農家が増えれば、農業人口も徐々に増えることも期待できます。子供たちにもどんどん見学に来てもらってはどうでしょうか?
農業が元気になれば、日本全体が元気になるように思います。農業人口の高齢化だとか減少だとか嘆いてばかりはいられません。
私も岩佐さんたちが育てたハイテク温室出身の真っ赤な苺を購入して、その味をぜひ確かめてみたくなりました。知識も技術も持ち合わせていない人間は、せめてその苺を買うことで生産者への協力をすることにします。
水と土とハイテクの農業の時代がやってきたのかも知れませんね。