「努力」が人を作り上げるものだということを、今更ながら改めて教えられる光景に出会いました。4人の若き男性バレリーナとその師の姿からです。
朝食後、茶の間で付けっぱなしになっているテレビを消そうとしたら、思わず画面に目が留まりました。バレエダンサーのレッスン風景です。それも女子ではなくて男子のバレリーナたち。
ちょっと興味を惹かれて見続けること二時間弱!朝からこんなにテレビを見ることなど稀。でもいつの間にか画面から目が離せなくなっている自分がいたのです。
久々に見ごたえのあるドキュメンタリー番組に、視聴後はなんだか心が熱くなっていました。
世界最高峰のバレエ学校で
番組の舞台は、ロシアにある世界屈指のバレエ学校「ワガノア・バレエ・アカデミー」。世界中から生徒が集まります。この学校に入るだけでも大変です。8年制で一学年約60人。しかし進級試験の度に、その半数が脱落するそうです。やはり最高峰は厳しさも最高峰!
校長はニコライ・ツィスカリーゼ氏。自らも世界最高峰のバレー団でソロを務めた人です。この人がまた厳しいのなんの。ダメな生徒には容赦なく怒鳴り散らします。褒めて育てるなんて彼には無縁。
生徒たちにとっては、三つの大きな山場があります。それらを中心に取材が行われました。
ロシアでプロのバレエダンサーになるためには、まず国家試験に合格しなければなりません。この国ではバレエダンサーは国家公務員扱いなのです。バレリーナが国家公務員だなんて、ロシアですね。それだけ芸術が大事にされていると考えてもいいでしょう。
国家試験に合格したら、いよいよバレー団のオーディション。いわゆるバレリーナたちの就活です。プロとして食べていくには、バレエ団に入る必要があります。
そして最後は、アカデミーの集大成である卒業公演です。目の肥えたロシアの人たちの前で踊るわけですから、それに向けての準備も大変です。
4人の少年たちの姿
この番組では4人の男子バレリーナたちの姿を追っていきます。
ミーシャ:校長一押しの成績No.1の生徒。もう見ているだけでほれぼれするほど。まるでバレーをするために生まれてきたかのよう。
アロン:背が低いけれど、まじめで努力家。お母さんが日本人ということもあるためか、見ているこちらもつい応援したくなる。一生懸命努力する姿に心を打たれる。
マルコ:ミーシャに次ぐ成績No.2の生徒。でもなぜか就活では不合格に。頑張れ~と肩を叩いてあげたくなる。
キリル:スタイル抜群でモデルのバイトをするほど。欠点は努力をしないこと。だから校長には怒鳴られっぱなし。この子が一番気にかかる。
厳しさの中に見る愛と美しさ
ツィスカリーゼ校長の厳しい指導は半端ではありません。特にキリルに対しては「怠け者!」などという罵声が容赦なく飛ばされます。
しかし国家試験前にキリルが体調を崩すと、彼の首根っこをつかまえて医務室に連れて行きます。自分で行けるのに、とはキリル。何としてでも治して国家試験を受けて欲しいという校長の愛を感じます。
校長のレッスンはとにかく厳しい。最高峰を目指す10代の若者を育てるためには、生半可な指導はありえないのです。彼らがプロのバレエ界に入れば、もっと厳しい世界が待ち受けているわけですから。
ツィスカリーゼ校長が発することばは、心にずしりと響きます。特にキリルへの檄は厳しいけれど、心に重く語りかけて来るようです。「君を褒めたたえる相手は敵だ!」には深い意味があり、私は思わず「そうだ!」と心の中で叫んでいました。
厳しさの中に潜在する熱い愛。この関係性にはある種の美しさが見えてきます。
厳しい愛を受け止める素直さ
キリルのように毎日怒鳴られていたら、普通は「このくそ親父!」などとふて腐れても不思議ではありません。しかしそんなそぶりもなく・・・。
実はキリル、いったいどうしたことか、あの世界の最高峰ボリショイバレエ団のオーディションに合格してしまったのでした。世の中何が起こるかわかりません(笑)。もちろん本人は大喜び。
しかしツィスカリーゼ校長は違います。「努力をしないものは踊リ続けることはできない」というのが彼の信念。ですから「怠け者」には強烈な爆弾を投げ込みます。そしてその極めつけがキリルに下されました。
アカデミーの集大成である卒業公演に、キリルは出演禁止となったのです!
当日、同級生たちは美しい汗を流しながら公演を無事終了。観客席のあちこちから「ブラボー」の声が聞こえてきます。
さすがのキリルも、さぞかし腐ってどこかでふて寝でもしているのではないかと思いきや・・・何と同級生たちに記念写真を撮ってあげているではないですか!ほっとすると同時に、この子大丈夫?とさえ思うほど(笑)。
最後に「狂うほど努力して、ナンバーワンのバレリーナになるんだ!」といって出ていくキリルの後ろ姿が印象的でした。
校長の教えがキリルにしっかりと受け継がれていたのです。そして先生の容赦ない厳しさを素直に受け止めるキリルの素直な心がまたすごい!先生への信頼も半端なものではなかったようです。
さいごに
NHKによると、撮影中にはカメラ向けの表情やちょっとしたリップサービスは皆無だったとか。校長が「カメラが入ったくらいで神経質になっているようでは、人に見られるバレエなどできはしない」ということを生徒たちにいっていたそうですよ。ブレない方です。
「生徒は教師が必要で、教師は生徒が必要だ」というツィスカリーゼ校長のことばが心に残っています。厳しさの裏にある深い愛情と信頼関係。教育の神髄?といってもいいでしょう。
バレエといえば、東京にいた頃に見たボリショイバレエ団の踊りと、森下洋子さんのくるみ割り人形くらい。あれ以来生鑑賞はなし。でも美しかったのを今も覚えています。
美しさの裏には血と汗と涙がある、という典型がバレエかも知れませんね。ワガノアのこともニコライ・ツィスカリーゼのことも全く知らなかったけれど、この番組のお陰で、ちょっとだけ覗くことができた「世界の最高峰」の舞台裏。
どんな世界においても、目に見えない大変な努力が存在するということを、改めて知らされたような気がします。
もちろん4人のイケメンたちは、十分目の保養に値したことは言うまでもありません(笑)。あの若きバレリーナたちのその後をぜひ日放送してもらいたいものです。すごく気になる~。